恋愛漫画の主役は、普通1組だ。多くても2、3組。
『徒然チルドレン』はその常識を最初から捨てている。
とにかくカップルの数が多い。読み始めて最初にびっくりするのがそこだ。しかもどのカップルも個性的で、見ていて飽きない。全部でいったい何組いるのか、数えながら読んでみてほしい。途中で数えるのをやめて、気づいたら朝になっているはずだ。
なぜそうなるのか。この記事で語っていく。
気になるところで切るなと言いながら読み続けてしまう
この作品、複数のカップルの話が並行して進む。
そして、切り替わるタイミングが絶妙にひどい。
誰かがとんでもないやらかしをする。空気が凍る。すれ違ったまま、どうなるんだと前のめりになった瞬間・・・別のカップルの話に切り替わる。
「うわ、ここで切るか」と何度も思った。
普通ならストレスになるはずだ。でも、ならない。切り替わった先にも、別のもどかしさが待っているからだ。そっちはそっちで気になるところで切られる。じゃあ次、その次、と読んでいくうちに、最初のカップルに戻ってくる。続きが読める。うれしい。でもまた切られる。
このサイクルが永遠に続く。だから手が止まらない。
もどかしさで読者を引きずり回す構造が、この作品の沼の入口だ。
すれ違いがとんでもないのに身に覚えがある
この作品、全体的にすれ違いがとにかく多い。
そして、すれ違い方に振れ幅がある。
片方には、とんでもないすれ違いがある。なんでそうなる、と笑うしかないやつ。高瀬と神田なんて、上手くいきそうでいかないをずっと繰り返している。間が悪い。横槍も入る。読者としては「はよくっつけや」と言いたくなる。
もう片方には、意外と身近なすれ違いがある。好きなのに素直になれない。相手の言葉を悪い方に受け取ってしまう。ツンのせいで自分から悪い方にいってしまう東条さんのようなタイプだ。読んでいて「これ、やったことあるかもしれない」とヒヤッとする。
ありえない展開に笑っていたら、次のカップルでは自分の過去を掘り返される。この行き来がクセになる。
もうひとつ言っておきたい。この作品、個性の強いキャラだけがへんなのではない。一見普通っぽい子も、結構へんだ。特にすれ違い気味のカップルの子たち。アプローチ強めの女子あたりは要注意だ。最初はヘタレだったのに、話が進むほどアプローチが大胆になっていく上根さんとか。好きな相手にはブレーキが効かなくなるタイプで、一度壊れたら、とことんだった。普通の顔をして、とんでもないことをする。
キュンキュンしにきたはずが笑ってばかりいる
ラブコメと聞いてキュンキュンを期待して読み始めると、裏切られる。いい意味で。
もちろんキュンキュンもニヤニヤもある。でもこの作品、ギャグの部分がちゃんと面白い。
パトリシアの「すし」に翻弄される辻くんがいる。「好き」の言い間違いかと思いきや、そうではないらしい。でも何かしらの愛情表現ではあるらしい。何なんだ「すし」って。
千秋と香奈のコンビもいる。恋愛は割とちゃんとしているのに、ハプニングとすれ違いだらけで、それどころじゃない。やり取りを見ているだけで結局笑ってしまう。千秋がヘタレなのも悪い。どちらかがあと一歩頑張れば、ここまでこじれなかったのに。
そして香取。恋愛マスターを名乗りながら、全く恋愛をしていない男。基本は意味不明なギャグキャラ。なのに、かなりの秘密を持っている。悪い人ではない。ただ、ちょっと頭が残念なだけだ。
恋とは、人をこんなにもアホにするのか。いや、元からアホなのか・・・。
そう思いながらページをめくる時間が、この作品の醍醐味のひとつだ。
恋の当事者は2人だけじゃない
この作品の恋愛は、2人だけで完結しない。
周りの助けがないと成り立たないカップルがいる。カップル同士が影響し合うこともある。誰かの恋が進むと、別の誰かの恋が動く。
だから読んでいると、恋愛模様の集合ではなく、ひとつの学校を覗き見ている感覚になる。脇役っぽく見えたキャラが、あとから恋愛を始めたりもする。この学校では、全員に人生がある。
そして、この構造の象徴みたいな男がいる。本山くんだ。
自己肯定感の低いオタクの山根くんが、ちよちゃんの好意をなかなか受け取れずにいる。その隣で動き続けるのが本山くん。自己評価は低め。でも、自分が辛くなろうとも、友達を殴って前を向かせる。そんな男。
山根殿、いい友達を持ったでござるな。
本山くん自身の恋愛はなかなかに苦労するし、正直、もっと幸せになってほしかったという気持ちが今もある。でも、彼を見ていると分かる。この学校の恋は、誰かの支えの上に成り立っている。
なんだかんだ全員を応援してしまう
これだけカップルがいれば、中には応援しにくい子もいそうなものだ。
いない。なんだかんだ、応援したくなる子ばっかりだった。
梶を見てほしい。見た目も性格もキツそうなのに、押されるとめっぽう弱い。オラオラな赤木に振り回されて、まんざらでもない顔をする。チョロい。チョロいのだが、それがめっちゃ可愛い。そして梶は、赤木との出会いをきっかけに変わっていく。クラスメイトとの繋がりができていくくだりは、うるっときた。ちゃんと報われた、と思えた。
菅原も見てほしい。めっちゃ鈍感な高野に片想いし続ける男だ。ほんっとうに分かりやすいのに、届かない。長かった。高野がどんどん菅原を意識し始める変化も含めて、ずっと見守ってしまった。読み終わったときの感想は「すがやん、まじ頑張ったね」だった。
もどかしさに引きずり回され、すれ違いに笑い、気づけば全員に「頑張れ」と思っている。この状態になったら、もう沼の底だ。
どのカップルから沼に落ちるかはあなた次第
これだけの数のカップルがいる。全員個性的で、アプローチの積極さも、恋の進み方もバラバラだ。女子から動く恋もあれば、男子から動く恋もある。
だから断言できる。読めば、必ず誰かに引っかかる。
アニメから入った人にも伝えたい。漫画の方が、キャラが多い。アニメに出ていないキャラが結構いるし、描かれていない恋愛も多い。アニメで観たあの学校の、まだ知らない恋がまだまだ残っている。
気になるところで切られて、悔しがりながらページをめくる。その時間を味わってみてほしい。
同じようにニヤニヤできる沼を探しているなら、こちらの沼ガイドもどうぞ。


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