変人しかいない。
許嫁ラブコメのはずなのに、アニメを観ても原作を読んでも、頭に浮かぶ第一声がこれだ。
主人公の姉はシスコンの変態。許嫁は無口で影が薄い。許嫁の妹は幼女なのに小姑。
全員おかしい。
なのに、なぜか居心地がいい。
『未確認で進行形』は、そういう作品だ。
荒井チェリーによる4コマ漫画。一迅社。2009年から約15年連載されて、全16巻で完結した。
2014年には動画工房がアニメ化している。全12話+OVA2話。
私はアニメ全話と原作16巻を全部消化した。
これから、この変人だらけの許嫁ラブコメになぜ飽きないのかを語る。
この作品の入口は、妖怪じみた姉
夜ノ森紅緒(べにお)。
主人公・小紅の姉で、生徒会長。文武両道の美人。校内での人気は異常。
スペック表だけ見たら、非の打ち所がない。
ところが、作中でこの完璧さが発揮される場面を私はほとんど記憶していない。
思い出すのは、妹への度を超えたシスコン行為、真白へのしつこいアプローチ、そしていちいち予測できない変態発言。
周囲の人間が「紅緒様はすごい方」と口で補完してくれるから、かろうじて設定が保たれている。
本人の言動はというと、何ひとつ証明していない。
これがいい。ここが入口。
紅緒がいなかったら、この作品は「ちょっと変わった許嫁が来る日常もの」で終わっていたと思う。
この人がいるから、最初の数話で引っかかる。
この人の奇行を追いかけているうちに、いつの間にか他のキャラにも目がいく。
つかみとして完璧に機能している。
しかも、この人は加速する。
序盤からぶっ飛ばしているのに、巻を重ねるごとにさらにエスカレートしていく。
妹に取り憑かれている。食中毒を跳ね返す。人外の領域をモノともしない。
もはや妖怪かなにかだ。
影が薄いのに、思いだけは豪速球
三峰白夜(はくや)。小紅の許嫁。
無口。無表情。そして影が薄い。
「ずっとそこにいたのに認識されなかった」がギャグとして成立するレベルの薄さだ。
正直、紅緒や真白と並ぶと印象では負ける。
だがこの人、口下手のくせに好意だけはど直球で投げてくる。
しかも不意打ちだ。
こちらが油断しているタイミングで、まっすぐに言ってくる。
そこだけ急にラブコメの主役をやるので、落差にやられる。
メールでは絵文字を使う。
ネットで調べ物をする。
見た目から想像できない人間くささもある。
小紅との恋は、ゆっくり進む。本当にゆっくり。
4コマのリズムだからこそ「少しずつ」が自然に見える。
ここが急だったら、しらけていたと思う。
ゆっくりだからこそ感じられる良さがある。
9歳の小姑がUMAを集めている
三峰真白(ましろ)。白夜の妹。小紅にとっては小姑にあたる。
9歳。見た目は完全に幼女。なのに高校に通っている。
大人ぶった敬語で小紅に説教したかと思えば、次の瞬間にはUMAのフィギュアに夢中になる。
怖い話が苦手なくせに、UFOやオカルトにはのめり込む。
情報の渋滞がすごい。
このキャラの核は、「幼女なのに小姑」。この一点に尽きる。
9歳の見た目で小紅の嫁入りを品定めし、生活態度に口を出す。
幼女の口から小姑の台詞が出てくるという、その構図だけでずっと面白い。
紅緒にとっては新たなターゲットでもある。
紅緒がしつこくスキンシップを仕掛け、真白が全力で拒否する。この攻防がずっと続く。
これがずっと面白い。
キャラ同士が仲良い、それだけで沼になる
ここで少し角度を変えたい。
この作品の一番の沼は、キャラ同士が仲良いことだ。
紅緒と白夜。似たもの同士なのに、互いの認識がぼんやりしすぎている。こべにのことはどちらもめちゃくちゃはっきり認識しているのに、お互いの存在はへのへのもへじレベル。同じ家にいるのに。あの組み合わせがたまらなく好きだ。
撫子(なでしこ)は紅緒の暴走を慣れた手つきでさばく。かわいい物好きで、漫画ではましろに構っている場面がやたら多い。紅緒と結構同類なのかもしれない。
まゆらはおっとりしているのに妙に鋭い。
仁子(にこ)はスクープ狂だが、友達思いの一面がちゃんとある。
全員ちょっとずつおかしい。
なのに空気がギスギスしない。
なんだかんだ、皆仲が良い。
その空気がずっと続くから、読んでいるこちらまで居心地よくなる。
巻末のおまけ的なサイドストーリーが好きだ。
本編とは違う角度でキャラたちの距離感が見える。こういう「余白」を持てる作品は強い。
アニメで掴まれて、漫画で沈む
アニメは2014年。動画工房制作、全12話+BD/DVD特典のOVA2話。
アニメと漫画で、結構印象が違う。
アニメはメインキャラの個性が前面に出る。
紅緒のぶっ飛び具合は声優さんの演技も相まって、アニメの方が強烈だ。
キャラのコメディなやりとりが目立ち、テンポよく進む。
一方、漫画は4コマ故の細かさで進む。
ひとつひとつのやりとりに行間がある。アニメでは削られた小さな描写が漫画にはたくさん残っている。
逆に、アニメでは特定の話を1話の長さに合わせて膨らませている部分もある。
足したり引いたり、大筋は同じでも細部がちょっとずつ違う。
恋愛描写は漫画の方が厚い。
アニメだとコメディの印象が先に来るが、漫画はラブコメの「ラブ」の部分をきちんと積み重ねている。
漫画には本編でお風呂回がある。TV本編にはないが、OVAで温泉旅行が描かれている。
サブキャラの出番も漫画の方が圧倒的に多い。
撫子、このは、まゆら、仁子。
アニメでは味付け程度だった彼女たちが、漫画ではちゃんと立ち上がる。
アニメで掴まれた人は、漫画に行くと沼が深くなる。
漫画から入った人は、声がついた瞬間にまた新鮮に出会い直せる。
入口がふたつある作品は、それだけで得をしている。
15年描き続けると、絵も空気も変わる
連載15年。4コマ漫画で全16巻。
4コマだから1冊が薄い。読むスピードは速い。でも15年は長い。
変化は目に見える。
5〜6巻あたりから絵が明らかに良くなる。キャラがどんどんかわいくなっていく。
作者の表現力そのものが上がっているのを感じる。多芸だ。色んな表現を使ってくる。
14巻からはさらに一段変わった。
絵が現代的になり、空気がラブコメに寄った。キャラ同士の掛け合いも少しマイルドになった印象がある。
キャラ自体の手触りがちょっと変わった、と言えばいいだろうか。
もしかしたら、この変化が完結に向かう流れと無関係ではないのかもしれない。
最後はかなり駆け足だった。
過去の記憶に関わる話は、恥ずかしくて嬉しい記憶だけが蘇って、ネガティブ(シリアス)な部分は結局謎のまま。
正直、そこは物足りない。
でも、16巻を通して「飽きた」と思った瞬間は一度もなかった。
連載の長さそのものが、作者とキャラの変化の記録になっている。
それを追いかけること自体が楽しいという、ちょっと珍しい4コマ漫画だ。
わからないまま進む、それがこの作品だ
「未確認で進行形」。
タイトルそのものが、この作品を言い当てている。
わからないことはたくさんある。
白夜たちの事情。小紅の過去。紅緒の頭の中。
全部はわからない。でも、わからないまま進んでいく。
この「進行形」の空気が居心地いい。
アニメでも漫画でも、どこから入ってもいい。
変人たちの家に、遊びに来てくれ。
変人系が好きなら手品先輩 沼ガイドもどうぞ。
無口な相手にじわじわやられたいなら川柳少女 沼ガイドを。



コメント