手品先輩は「残念」の詰め合わせだから沼なんだ|漫画全8巻の沼ガイド

漫画

手品が好きなのに、人前だと100%失敗する。
見た目は可愛いのに、言動はだいたい下品な方向に転がる。
恋愛っぽい空気になりそうで、ならない。

それが手品先輩という漫画だ。

私はアニメから入った。
12分のショートアニメで、ゲラゲラ笑って、ちょっとエロくて、気楽に観られる作品だと思っていた。
で、漫画全8巻を読んだ。
思っていたのと、ちょっと違った。
アニメで見えていたのは、この沼のほんの入口だった。

残念で、無防備で、手品バカ。それが手品先輩だ

『手品先輩』は、アズによるショートギャグ漫画だ。
週刊ヤングマガジン(講談社)にて2015年に読切が掲載され、2016年から本連載を開始。2021年に完結した。
全8巻。
2019年にはテレビアニメ化もされている(全12話、ライデンフィルム制作)。

舞台は、種無高校の奇術部。
部員はたった一人の3年生の先輩と、強引に助手にされた1年生の後輩男子。
先輩は手品が大好きだが、極度のあがり症で人前だと必ず失敗する。
その失敗のたびに下着が見えたり、変な体勢になったり、とにかくハプニングが起きる。

基本は1ページ単位のショートエピソードが数本で1回分を構成する形式だ。
テンポが速くて、読み始めると手が止まらない。
ギャグとお色気が交互に来るジェットコースターみたいな漫画だ。

先輩の沼が深い

この漫画の主役にして、魅力の本体。
読めば読むほど、先輩というキャラクターの底が見えなくなっていく。

残念美人という最強属性

先輩は美人だ。
スタイルもいい。
だが、そこで終わらないのがこの漫画のいいところであり、悪いところでもある。

無防備。
無頓着。
ガードがゆるいのではなく、そもそもガードという概念が存在しない。
手品の失敗で下着が見えようが、変な格好になろうが、本人はあまりダメージを受けてない。
助手が一人で慌てている横で、先輩は次の手品のことを考えている。
そういうとこだよ先輩。

しかも、基本的に言動が卑猥な方向に転ぶ。
本人にその自覚がないから厄介なんだよね。
誤解を生む発言をして、周囲がざわついて、本人だけきょとんとしている。
このパターンが好き。
美人なのに残念。残念なのに愛おしい。それが先輩だ。

どこでも手品する先輩

先輩の行動力は異常だ。
学校の中だろうが外だろうが、場所を選ばず手品をやる。
合宿でも披露する。
バイト先にまで持ち込む。
思い立ったら止まらない。
この「どこでも手品をせずにいられない性分」に「人前だと失敗するあがり症」が重なるから、行動すればするほど残念なことになる。

しかも足が速い、料理もできる、手品の知識は豊富で、学校の成績もそこまで悪くない。
練習では手品もちゃんと成功している。
これだけできる人間が、手品のせいで全部台無しにしているのだから、余計に残念だ。
手品バカ。
愛おしい手品バカだ!

ピュアなのか、闇が深いのか

先輩は恋愛に関してはかなりピュアだと思う。
直接的な表現や行動じゃないと、恋愛的な意味が伝わらない。
鈍感というより、回路がちょっと違う感じ。

でも、読み進めていくと「あれ?」と思う瞬間がある。
単純なポンコツで片付けられない、少し影のある反応を見せるときがある。
ヤンデレの気配、とまでは言わないが、このキャラの奥にはもう一層ある。
そう思わせる描写がちらほら出てくる。

これ以上はネタバレになるので言わないが、先輩を「ただのポンコツ美人」だと思って読んでいると、ちょっと驚く瞬間がある。
ポンコツだけでは語れない。そこも含めて、沼だ。

先輩だけの漫画じゃない

この漫画、メインの登場人物は6人と少ない。
そして全員、フルネームがわからない。
先輩は「先輩」、助手は「助手」、先輩の姉は「先生」か「お姉ちゃん」。
咲さん、正志、斑さんも名前か名字だけだ。
アニメだとテンポが速いからあまり気にならなかったが、漫画で読むとたまに「この人たち、名前なんだっけ」となる。
でも不思議と、それが作品の空気に馴染んでいるんだよね。

助手

ツッコミ担当。
器用で、先輩の手品の失敗を冷静にさばく。
アニメだとそういう立ち位置がメインだった印象だが、漫画は違う。

後半になるほど、助手自身が手品をやるシーンが増えていく。
しかも、失敗する描写もある。
アニメだとほとんど成功ばかりだったから、これは意外だった。
先輩の影響を受けて、少しずつ手品の世界に引き込まれていく過程が漫画にはある。

あと、助手は結構めんどくさい。
独占欲があって、ちょっと変態でもある。
先輩の手品にえっちなハプニングの可能性があるときはめちゃくちゃ食いつくし、先輩に彼氏らしき人物が現れたときの暴走っぷりはなかなかのものだった。
アニメだと「巻き込まれた常識人」に見えるが、漫画で読むと「巻き込まれた側だけど、たまにやばいやつ」という印象に変わる。
ツッコミ役のくせに、一番沼にはまっているのは助手かもしれない。

咲さんと正志

大道芸をやる姉弟。

咲さんは押しが強くて器用、そして超ブラコン。
手品先輩とは違う方向で有能な人なのだが、弟のことになると全力で暴走する。
五巻で出てくるスッピンの咲さんは、普段の印象とかなり違う。
あのギャップは一見の価値がある。

正志は、モテたくて大道芸を始めた男の子だ。
だが不器用でなかなかうまくいかない。
しかも、後から始めた姉の咲さんがあっさりできるようになるものだから、そこにコンプレックスを抱えている。
エッチなことに興味があってたまにアホになるところも含めて、等身大の男子高校生だ。
アニメだと大道芸の相方ぐらいの印象だったが、漫画では正志の内面にもちゃんとスポットが当たっている。

斑さん

化学部の部長。
一見クールだが、面倒見がいい。
奇術部がまだ正式な部活として認められていなかった頃、助手を化学部に兼部させてくれたのも斑さんだ。
手品と化学は違うと口では言いつつ、奇術部のことを嫌ってはいない。
先輩と同じく、好きなもの(科学)に夢中になるタイプでもある。

八巻あたりから、助手への感情があからさまになる。
それまでも片鱗はあったのかもしれないが、八巻で急にギアが入った印象だ。
先輩と斑さん、どっちなんだ――という匂わせが漫画の後半にはある。

先生

先輩の姉で、助手のクラス担任。
既婚者でもある。
名前は最後まで出ない。
「お姉ちゃん」か「先生」だけ。
普段は穏やかでちゃらんぽらん。
妹の胸を揉んだり、奇術道具の中に隠れて驚かせたり、やることが自由すぎる。

ただ、この人も闇が深い。
酒やタバコが好きで、先生業の大変さを抱えている気配がある。
普段がゆるいだけに、先輩がやらかしたときの反応の怖さは際立っていた。
怒ったらかなりヤバそうだなという印象が残っている。
出番は多くないが、出てくると何かやらかす。ここは妹と同じだね。

アニメから入った人へ――漫画はちょっと味が違う

アニメの手品先輩が好きで、漫画も読んでみようかなと思っている人へ。
同じ作品だが、味がちょっと違う。
その違いが面白い。

手品の説明が細かい

原作でも、手品のタネや仕組みの解説がしっかり描かれている。
アニメだとテンポ優先で流されていた部分が、漫画ではちゃんと説明される。
「この手品、こういう仕掛けだったのか」と知る場面が増える。

コイン貫通マジックや人体切断マジック、トランプで相手が引いたカードを当てるマジックなど、定番の手品のトリックが解説される場面がある。
こういうトリックのネタって、気になっても自分で調べないんだよね。
漫画を読んでいるだけで「あの手品、こういう仕組みだったのか」とわかるのは得した気分になる。

ちょっとしたトリビアもある。
手品で白い鳩が使われるのは、白が膨張色で大きく見えるから。
そこから囲碁の碁石は白の方がわずかに小さいという話につながったり。
トランプのジャック(J)、クイーン(Q)、キング(K)は、4枚それぞれで微妙に顔が違うとか。
「へぇ〜」となる話がいくつもあった。

二巻からアニメ未収録エピソードが出る

アニメは原作の序盤をベースにしているので、一巻の内容はだいたいカバーされている。
だが、二巻からはアニメで見たことのないエピソードがどんどん出てくる。
三巻で新キャラが参戦して奇術部の空気が変わり、四巻でさらにキャラが増える。
五巻はほぼ丸々合宿で、アニメだとあっさり終わった印象だったが、漫画では1冊使って描いていて密度が全然違う。
六巻あたりから行事が増えて、先輩の今まで見えなかった面が出てくる。
後半の七巻・八巻は、序盤とは雰囲気が変わってきたなと感じた。
読んだことのない手品先輩が、二巻以降にたくさん待っている。

キャラデザインの違い

アニメと漫画で、助手の顔が若干違う。
キャラクターデザインのタッチに差があるので、アニメの印象で読み始めると少し戸惑うかもしれない。
サービスシーンの見せ方もアニメと原作では方向が違っていて、アニメは動きと揺れで柔らかさを出す。
漫画は静止画だからこそのアングルと構図で攻めてくる。

エロいけど、下品だ

これは正直に言っておきたい。
手品先輩はお色気漫画だが、「お色気」で収まらない下品さがある。

パンチラが多い。
かなり多い。
読んでいて「作者、パンチラフェチか?」と思ったが、おっぱいのシーンも多いのでフェチの方向性は一概には言えない。

そして、たまにわかりにくい下ネタをぶっ込んでくる。
わかる自分も嫌になるタイプの下ネタだ。
巻が進むとガッツリした下ネタも出てくる。
「ちょっとエッチなギャグ漫画」と思って読むと、面食らう瞬間がある。
そのつもりで読んでほしい。

『だがしかし』の影を感じるか

手品先輩の作者アズは、『だがしかし』の作者コトヤマの元アシスタントだ。
単行本一巻の帯コメントもコトヤマが書いている。

言われてみると、構造が似ている。
ニッチなテーマ(手品とお菓子)をショート形式で描く。
巨乳のヒロインと、低テンションの少年。
キャラ造形の方向性も近い部分がある。

ただ、読んでみると作風はちゃんと違う。
『だがしかし』は駄菓子への熱量と情報量が段違いで、テーマへの掘り下げが深い。
ストーリーや恋愛の展開もめちゃくちゃ気になるし、ほたるさんを筆頭にキャラがエロ抜きでも単独で面白い。
後から追加されるキャラも個性が強くて、作品の幅が広がっていく。

一方で、手品先輩には手品先輩の強みがある。
日常寄りのショートギャグなので、とにかく気軽に読める。
だがしかしはストーリー性がある分、シナリオの谷が深くて読んでいてしんどい瞬間もあるが、手品先輩は谷があってもすぐに回復する。
キャラの魅力や面白さも、こちらはこちらでちゃんとある。
手軽なお色気漫画が好きなら、間違いなくこっちの方が合う。

正直に言えば、画力や構成にはデビュー作ならではの拙さも感じる。
でも、その拙さも含めて手品先輩の味だと私は思っている。

似ているかと聞かれたら、「入口は似ているが、沼の中身は別物」と答える。

一つだけ、覚悟しておくこと

恋愛は、どうなったかわからないまま終わる。
先輩と斑さん、どっちなんだ問題も決着しない。
助手の先輩への感情、先輩の助手への感情についても最後まで曖昧だ。
あがり症の話もそのまま。
手品も失敗し続けている。

全体的に、投げっぱなしで終わる。

でも、私はそれでいいと思っている。
この漫画は、壮大なストーリーを追いかける作品じゃない。
先輩が手品に失敗して、助手がツッコんで、咲さんが煽って、斑さんが化学の話をして・・・
その日常のドタバタを楽しむ漫画だ。
きれいに畳まれる結末を期待して読むと肩透かしを食らうが、「この空間がずっと続いてほしかった」と思える作品ではある。

六巻で先輩が手品を成功させるシーンがある。
文化祭のステージで、成功したら助手とデートという約束がかかっている。
正直、お色気シーンとか出してる場合じゃないっちゅうねん、と思いながら読んでいた。
5巻分の失敗を見続けてきた後だから、成功するのかどうかがめちゃくちゃ気になった。
正直、なんで成功したのかはっきりしない。
でも、そのシーンを読んだとき、私はちょっとうれしかった。
ずっと失敗し続けている先輩が、ちゃんとした場所で一度だけ成功する。
それだけでも、この漫画を全巻読んでよかったと思えた。

まとめ

手品先輩は、残念な漫画だ。
先輩は残念美人で、手品は失敗するし、恋愛は進まないし、結末は投げっぱなしだ。

でも、その「残念」がたまらなく愛おしい。
先輩のポンコツさも、助手のめんどくささも、咲さんのブラコンも、正志の不器用さも、斑さんの面倒見のよさも、先生のいたずらも。
全部ひっくるめて、この漫画の中毒性だ。

アニメしか見ていない人は、二巻から先に知らない手品先輩がいる。
全8巻、長くはない。

ちょっと変わったヒロインの学園ものが好きなら、川柳少女の沼ガイドもどうぞ。

読んでくれ。


参考情報源

コメント

タイトルとURLをコピーしました