『黄泉のツガイ』沼ガイド──この作品は底が見えない

アニメ

荒川弘がまた、底なしの作品を投げてきた。『黄泉のツガイ』。日本の民俗と怪奇が交錯する、新感覚のツガイバトル。

これがもう、とんでもない作品だ。

1話で世界がひっくり返る導入。読むたびに見つかる「対」の構造。
全員が主役級の存在感を持つキャラクター。回収されるたびに震える伏線。
どこを掘っても底が見えない。

この記事では、『黄泉のツガイ』の沼がどれだけ深いかを語っていく。
まだ読んでいない人も、途中まで読んで止まっている人も、ここから一緒に沈んでほしい。

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1話からぶっ壊しにくる

山奥の村で暮らす少年の、穏やかな日常。鳥を狩って、自然に囲まれて、のどかに生きている。
最初の数ページだけ見たら「ああ、和風ファンタジーね」と思うかもしれない。

甘い。この作品はそんなに優しくない。

1話の時点で世界がひっくり返る。穏やかだった景色が一瞬で崩壊して、読者が「こういう話だろう」と思っていた前提ごと叩き壊してくる。しかもその壊し方が鮮やかなのだ。
後から振り返ると、序盤にばらまかれた小さな違和感がちゃんと伏線として機能していたことに気づく。

荒川弘は出だしから全力で殴りにくる。
1話を読み終えた時点で、もう手が止まらない。ページをめくる手が勝手に動く。そういう作品だ。

「対」がどこまでも深い

タイトルにもなっている「ツガイ」。これは作中に登場する二体一対の超常的な存在のことなんだけど、この「対になっている」という構造が、設定だけで終わらない。

読み進めていくと、あちこちに「対」が見えてくる。兄と妹。味方と敵。守る者と壊す者。表と裏。物語のあらゆる場所に「二つで一つ」の構造が仕込まれている。

最初は単なるバトル設定だと思っていたものが、キャラクターの関係性に重なり、勢力の構図に重なり、物語そのものの骨格に重なっていく。
読み返すたびに「ここも対だったのか」と気づく瞬間があって、そのたびにゾクッとする。

設定が深いだけじゃない。設定が物語の隅々まで根を張っている。だから読むたびに発見がある。

この主人公がとにかくいい

主人公のユルは、山育ちの素朴な少年――と見せかけて、とんでもなくタフだ。

まず芯がある。大切な人を守ると決めたら、迷いがない。
でも感情に任せて突っ走るタイプかというと、そうでもない。
状況を見て判断する冷静さがちゃんとある。熱いのに頭が回る。
このバランスが絶妙なのだ。

情に厚い。けど甘くはない。すぐに助けたい気持ちがあっても、それが現実的に無理なら耐える強さがある。少年漫画の主人公にありがちな「考えなしでも救える」という理想論に逃げないところが、読んでいて信頼できる。

だからこそ、ユルが本気で怒るシーンや、覚悟を決める場面には重みがある。
普段の判断が合理的だからこそ、感情が振り切れた瞬間の破壊力がすごい。
この主人公を嫌いになる人はそうそういないんじゃないかと思う。

全員が主役を張れる

この作品のキャラクターは、ユルだけじゃない。
むしろ「誰を主人公にしても成立するんじゃないか」と思えるくらい、一人一人の描き方が厚い。

双子の妹にも、主人公のツガイにも、敵側のキャラクターにも、それぞれの物語がちゃんとある。
なぜそこにいるのか、何のために戦っているのかが、読み進めるうちに見えてくる。

荒川弘の作品はいつもそうだ。脇役を脇役のまま放置しない。どのキャラクターにも背景があり、信念があり、行動の理由がある。だから読者はいろんなキャラクターに感情移入できる。推しが分散する。それが楽しい。

群像劇としての密度が異常に高い。どのキャラを追いかけても、その先に面白い物語が待っている。

誰も単純な悪役ではない

この作品を読んでいて厄介なのは、「こいつが悪い」と決めつけられないことだ。

最初は敵として出てきたキャラクターの事情が、話が進むにつれて明かされていく。その背景を知ると、もう単純に憎めなくなる。それぞれの勢力にそれぞれの正義がある。守りたいものがある。誰もが自分なりの筋を通している。

だから対立が重い。どちらかが倒れれば、どちらかの正義が踏みにじられる。その構図を突きつけてくるから、バトルの緊張感が「強い弱い」じゃなく「どっちにも負けてほしくない」になる。

読んでいて「誰が正しいんだろう」と考え込む。でも答えが出ない。そのもどかしさこそが、この作品の味だと思う。

世界観と設定が厚すぎる

『黄泉のツガイ』の世界は、日本の民俗信仰や神話をベースにしている。
神様、妖怪、霊――日本人なら聞いたことのある概念が、この作品独自のルールで再構築されて出てくる。

しかもその出し方がうまい。一気に説明するんじゃなくて、物語の進行に合わせて少しずつ開示される。読むたびに「まだこんな設定があったのか」と驚かされる。引き出しが尽きない。

荒川弘は作品ごとにまったく異なる世界を作ってきた作者だけど、引き出しの深さは今回も健在だ。むしろさらに増えている。

読み応えがある、という言葉がこれほど似合う世界観もなかなかない。

伏線が読みきれない

この作品は、読み返しが楽しい。というか、読み返さないともったいない。

荒川弘の仕掛け方はえげつない。何気ないセリフや背景の描き込みが、数巻先の展開で意味を持ち始める。初読では気づけない。先を知ってから戻って、ようやく「ここに置いてあったのか」とわかる。
読者が自力で見つけるしかない仕掛けだから、見つけたときの快感がでかい。

しかもまだ連載中だ。回収されていない伏線がどれだけ埋まっているのか、全体像が見えない。完結していないのに何周もしたくなる。それは、この作者が「読み返した人だけが気づける仕掛け」を意図的にばらまいているからだ。

考察すればするほど深みにはまる。でもその「はまっていく感覚」がたまらなく楽しい。

この沼は底が見えない

ここまで読んでくれた人には、もう伝わっていると思う。『黄泉のツガイ』は、読めば読むほど深くなる作品だ。

1話の衝撃から始まって、「対」の構造に気づき、キャラクターに惹かれ、世界観に飲み込まれ、伏線を追いかけ始める。気づいたらもう戻れなくなっている。

そしてこの沼は、まだ深くなり続けている。
連載は続いているし、アニメも始まった。
今から飛び込むなら、ガンガンONLINEで無料で読めるのがありがたい。

もっと深く潜りたくなったら、考察記事も用意してある。覚悟ができたら、どうぞ。

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